36)摩訶大将棋の特徴:踊り駒

摩訶大将棋を最も特徴づけるものは踊り駒の存在で、正行度で踊る(直線的に踊る)駒が、7種類あります。大将棋や中将棋にもある師子(獅子)の駒も踊りの範疇にはいるわけですが、これは不正行度の踊り(じぐざぐに踊る)です。

 

本稿の踊りの動きは1592年の写本である象棊纂圖部類抄に基づいてまとめられています。摩訶大将棋が現代に伝わっていない以上、古文書の記載だけが唯一の拠り所となりますが、十分な記載とは言えません。そうした場合、試験対局を重ねることで妥当な結論を選択することになります。まず、踊り駒の定義ですが、次のように表現してみました。


踊り駒の定義:1手で複数個の駒を取ることができる駒(*注1)


以下、踊り駒の具体的な動きを古文書の記載と合わせて検討します(*注2)。
駒の動きについては次のサイトに一覧・図示されていますので、是非ご覧下さい。
http://makadai.makomayo.com/comas/

 

1)狛犬(こまいぬ)
師子との対比で動き方の解説がなされています(*注3)。
師子の動き方は確実ですので、これを手がかりにできます。


(一部読み下し)
四方四角踊三目其中一目二目要に随てこれをつかう、
師子の如し、但し師子は踊二目不正行度、狛犬は踊三目八方正行度す


古文書にある「師子の如し」がキーポイントとなります。2目踊りの師子が2駒を取れますので、3目踊りの狛犬は3駒を取ることができます。また、師子が味方の駒を飛び越せるように、狛犬も飛び越すことができます。師子は王将2回分の動きで最大2駒を取りますが、狛犬の場合は、直線的に3目を進み(正行度)、敵駒が線上の1目2目3目にあった場合全部とることができます。


「其中一目二目要に随てこれをつかう」
この記述から狛犬の着地位置は、3目に限らず、2目でも1目でもよいと解釈できます。2目に着地した場合は2目踊りとなります。1目の場合は、踊りの特殊性はなくなります。


2)金剛・力士
方向の違いだけで動きは同じですので、金剛についてだけ説明します。金剛の記述は次のようになっています。


四方踊三目不踊一目二目越馬、四角歩一目


不踊一目・・の箇所を以前の投稿9)では、踊らざれば一目、と読んでしまい、解釈を間違ってしまいました。ここは、


三目を踊る、一目二目をば踊らず、馬を越す、


と読むべきで、この読みですべて解決したように思います。つまり、金剛は四方(前後左右)で狛犬と同じく3目踊り(飛び越えた相手駒も取ることができる)ですが、着地点はいつも3目のところだけとなります。1目2目に進めることはできません。「一目二目要に随てこれをつかう」ことのできるのは狛犬だけで、金剛と力士はこれができません。


2目踊りの飛龍と猛牛も同じ理由で、1目だけ進めることはできません。「踊り2目、1目をば踊らず」、とありますので。ただ、あと少し補足が必要で長くなりますので、この項、ここでいったん中断し、後日に投稿します。羅刹、夜叉についてもそのときに書くことにします。

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*注1:余談ですが、踊り=おおどり(たくさん取る)、という言葉合わせの可能性はどうでしょうか。
*注2:本稿の見解は以前の投稿とは違っており、本稿が正しい見解です。投稿9)の内容は無視して下さい。
*注3:これも余談ですが、師子と狛犬は本来ペアで現れるべきで、この点から、師子の導入の一番はじめは、もしかして、摩訶大将棋ではないかとの考え方を持ち続けています(狛犬の駒ができたとき、同時に師子の駒も作られた)。

 

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コメント: 4
  • #1

    長さん (火曜日, 25 12月 2012 10:16)

    なるほど「四方踊三目不踊一目二目越馬」は、
    「四方踊三目不踊一目二目越目」か、
    「四方踊三目不踊一目二目」のみの方が、
    分かりやすかったんですかね。

  • #2

    mizo (水曜日, 26 12月 2012 09:51)

    先生のご意見に反対ということではありませんが、私の感想を書きます。

    踊り駒の定義:1手で複数個の駒を取ることができる駒
    ←中象戯の記述の中に、獅子の居喫について一枚二枚可随時とあり、飛鷲・角鷹には二目居喫という表現で、2度の動きを表しています。踊りとは違うと私は考えています。
    狛犬は、24箇所のどこにでも移動できるというだけの駒だと考えています。

    1目の場合は、踊りの特殊性はなくなります。
    ←先生のこの着眼は重要だと思います。

    金剛の記述は次のようになっています。
    或四方三目踊不踊一目二目越馬四角歩一目(こちらが全文だと思います)
    ←私は次のように読みました。
    或、四方(縦横)に三目踊る(その中のどこにでも行ける)。一目は踊りには成らない(歩むと同じ)。二目まで馬を越すことができる(三目目に行くとき)。四隅に一目歩む。
    或 四方三目踊 不踊一目 二目越馬 四角歩一目

  • #3

    T_T (水曜日, 26 12月 2012 22:06)

    コメントありがとうございます!

    長さんへ
    書き方のほうは問題ないと思いますが、読み手の問題でした。踊三目不踊一目二目のところを、はじめに、踊り三目、と読んでしまうと、どうしても、踊らざれば・・・と読むことになってしまいます。

    ここを、三目を踊る、と読むと、一目二目をば踊らず、で迷うことはなかったです。

    mizoさんへ
    古文書には「師子の如し」と書いてありますので、狛犬を「24箇所のどこにでも移動できるというだけの駒」と考えますと、師子のようではなくなってしまうのが難点ではないでしょうか。象棊纂圖部類抄だけを拠り所としますと、師子と狛犬の違いは、2目踊か3目踊か、正行度か不正行度か、この2点です。師子と狛犬は、阿吽(あうん)のペアですので、狛犬は師子と同程度のパワーを持つのが適当かと思ってます。そういう目で古文書を読み、直線上の3駒まとめて取ることができるという結論になりました。

    狛犬の解釈が決まれば、金剛、力士、猛牛、飛龍についての解釈も同様に決まります。元の投稿の引用は間違っていました(踊三目・・は狛犬の文章でした)。金剛の場合、引用していただきましたとおり、次のとおりですが、ただ、越馬の前で切れるのが順当かと思います。

    四方三目踊不踊一目二目、越馬

    象棊纂圖部類の別の箇所に(マイクロフィルムのページ番号82)、一目二目ヲハヲトラス皆越馬、という読み下し文がありますので、この切れ目は確かではないでしょうか。

  • #4

    mizo (日曜日, 31 3月 2013 23:01)

    >2
    訂正します。

    狛犬の動きを説明した部分は
    「四方四角踊三目其中一目二目随要テ仕之如師子」
    新しい私の解釈
    四方四角(つまり八方)に三目踊る。
    (24箇所に直接移動できる。一回の動き)
    その中の一目二目を獅子のように自由に使うことができる。
    (踊る範囲を獅子のように分割して使用できる。獅子は二目を一目2回に分割。狛犬は、三目を、一目移動3回、一目移動と二目移動、二目移動と一目移動のようにできる。)

    金剛の記述は次のようになっています。
    或四方三目踊不踊一目二目越馬四角歩一目(こちらが全文だと思います)
    新しい私の解釈
    狛犬との比較で説明がされていると思います。

    或、四方(縦横)に三目踊る(その中のどこにでも行ける、一回の動き)。
    その中の一目二目は踊らない。(三目を分割はできない。2回の動きにはできない。狛犬との違い)
    馬を越す(三目のどこにでも行けるので、途中の他の駒が進路を邪魔することはなく、合間効かずである)。
    四隅(斜め)に一目歩む。
    或 四方三目踊 不踊一目二目 越馬 四角歩一目