84)諸象戯圖式の再評価:師子と狛犬の居喰い

大型将棋の記述がある古文書のうち、最も古いのは、象棊纂圖部類抄(写本:1592年)で、次に古いのが、諸象戯圖式(原本:1696年)となります。ただし、象棊纂圖部類抄の原本のひとつは1443年の写本ですから、象棊纂圖部類抄の内容は、諸象戯圖式よりも250年以上も遡ることになります。摩訶大将棋は、15世紀後半にはすでに指されなくなっていたと思われますので、著作が成立した時代を考えますと、諸象戯圖式については、これまで、あまり評価していませんでした。


また、時代が大きく下るという点とも連動しているのでしょうが、諸象戯圖式には間違いが多く見られます。間違いは、駒のルールをより小さい将棋に倣うものとしていることから来ています。たとえば、諸象戯圖式では、大大将棋の師子の成りを奮迅(これは正しい)、そして、摩訶大将棋の師子の成りも奮迅(これは間違い)としてしまうのです。


なぜ、より小さい将棋に倣うかは明らかで、著者は、小さい将棋ほど早くに成立したと考えているのでしょう。結果として、はじめに存在していた駒のルールを引き継いでいます。


こういうわけで、本ブログでは、象棊纂圖部類抄の記述だけに基づいて、復刻を続けてきました。ところが、先日、投稿76)のコメントで話題になりましたように、諸象戯圖式の著者は、踊り駒のルールを正確に把握していたようです。そのことは、諸象戯圖式に中にある図にもきちんと表わされています。踊り駒のルールは、江戸時代になっても、きちんと伝承されていたわけです。


では、諸象戯圖式は、どれほどに信頼できるのか、まだ何とも言えませんが、再評価すべきは確かです。後日いくつか投稿していきますが、本稿では、まず、以下の記述を紹介するだけにとどめたいと思います。諸象戯圖式は、序文、諸象戯式、諸象戯圖式の3つに分かれますが、以下の記述は、諸象戯式のひとつとして挙げられています。諸象戯式は全部で14ヶ条あり、その8つ目です。禁止則を書いています。


諸象戯つながざる獅子狛犬を獅子狛犬にてとるなり
つなぎけるをとる事


少し読み違いがあるかもですが、内容的には大きくは変わりません。中将棋の獅子のルールと同じことを書いていて、つなぎ駒のある獅子と狛犬は、獅子と狛犬で取れないというルールです。狛犬にも獅子と同じルールを適用しているわけです。摩訶大将棋では、師子と同じく、狛犬も居喰いできたということなのでしょう。象棊纂圖部類抄にはない、踏み込んだ記述です。

 

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コメント: 2
  • #1

    長さん (月曜日, 20 1月 2014 11:35)

    ここで論じているのは、獅子の動かし方での居喰いの話では
    なくて、例外的禁手としての、獅子で獅子を取る場合の規則に
    関する諸象戯圖式の記載と理解しました。
     居喰いと例外的禁手は、歴史的には、何か関連性が有る
    のかもしれませんが、ルールのカテゴリーとしては、
    別の話として論じた方が、紛れが無いと私は思います。
    なお、現在の中将棋では、獅子による獅子のの居喰いは、
    相手の獅子に繋駒が有っても出来ると、変質している
    ように理解していますが。1升目置いて向こう側に
    有る獅子を、味方の獅子で取る事に関する例外禁手規則に、
    変化していると思います。

  • #2

    T_T (木曜日, 23 1月 2014 02:19)

    コメントありがとうございます!

    本文の記述、言葉足らずでした。
    引用した文章は、つなぎがある場合の師子と狛犬は取れないというだけで、居喰いについては、言及していません。ただ、師子や狛犬どうしの相討ちを禁止しているだけです。ですが、相討ちを禁止するほどに、強力で重要な駒だということを、このルールは表わしています。もし、師子に居喰い機能がないとしたら、このルールはないでしょう。師子が師子であるためには、居喰いができないと。

    ところで、師子相討ちの禁止を狛犬にも適用する事を、このルールは言っているわけです。狛犬が師子と同じほどに強く重要な駒だったのでしょう。もし、狛犬に居喰い機能が備わっていないとしたら、狛犬は師子よりずっと弱いでしょうから、そんなことはありません。

    こういうふうにして、狛犬にも居喰い機能があったはず、と考えたわけですが、文章が足りませんでした。同じ件後日また投稿します。14ヶ条の中には、付け食いのルールもありますが、歩兵と仲人、それと、奇犬も対象に入っています。これは、摩訶大将棋だけでなく、大大将棋も含めての話にまでなっています。いずれにせよ、狛犬が、師子同様の強力さを持っていたことを、つまり、居喰い機能を備えていたことを暗示しています。