前の投稿163)の続きとなりますが、実は、大大将棋にも、シャトランジの痕跡が残っています。本稿タイトルのshatranj variantsという語句は、シャトランジ系列の総称という意味で使っており、チェスのルーツはshatranjですから、ancient chessという語句でも問題ありません。大型のものだけに絞る場合は、large variants of shatranjという言い方もできます。
本来ですと、まずshatranj variantsについて解説してから、議論に入るべきですが、シャトランジの解説の方はしばらくお待ち下さい。参考となるWebサイトも多数ありますが、後日に書籍や論文のリストをまとめて投稿します。
本稿では、大大将棋とshatranj variantsの類似点を、成りの規則性に求めています。大大将棋の成りは、一見、個別に設定されているように見えますので、規則性はないように思われるかも知れませんが、shatranj variantsの影響と思えば思えないこともありません。以下の点、是非ご一考いただければと。
さて、いきなり本題に入りますが、Tamerlane chessの歩兵(pawn)は一番端まで進むと同じ列に並んでいた駒(初期配置では、自分の後ろの駒)に成るというルールがあります。原初のシャトランジ(6~8世紀あたりのシャトランジ)では、歩兵はどれも将(general)に成ったわけですが、シャトランジが大型化していく過程のどこかで、成りのルールも拡張されたということでしょう。その結果、歩兵は、馬(knight)や車(rook)にも成れますし、王(king)の前の歩兵(pawn of kings)であれば王子(prince)に成って、王と同等にまで上り詰めることも可能です。この点は、前稿163)にて、類似点のひとつとして列挙したとおりです。
このような成りのルールは、Tamerlane chess(14世紀に成立)だけに見られるものではなく、大型シャトランジの系列(large varients of shatranj)には、しばしば見られるものであって、少なくとも11世紀には、出来上がっていたでしょう。名前を列挙できるほどまでには文献は読み込めていませんが、類似ルールのシャトランジ系列は、たとえば、Courier
chess(12世紀ごろ成立か)等があります。古代ペルシャで先に成立していたとすれば、このルールの成立は、もっと以前だったはずです。この当時、ペルシャの方が都会であり、ヨーロッパは田舎だったということに注意して下さい。
どうも長くなりそうですので、本稿では、以下に大大将棋の初期配置図のみ示して、後日に続きを書きます。
図1で、赤色文字、青色文字の駒が、成りのある駒です。本稿で注目するのは、赤色文字の駒の成りです。たとえば、毒蛇、飛龍、行鳥、猫又、踊鹿、古鵄の成りは、象棊纂圖部類抄を参考にすれば、次のとおりです。括弧内が成り駒です。
毒蛇(鉤行)、飛龍(方行)、行鳥(龍王)、猫又(奔鬼)、踊鹿(龍馬)、古鵄(天狗)
間違っていますよ、と言われるかも知れません。しかし、shatranj variantsの痕跡が残ったとするなら、上に列記したとおりです。むしろ間違っているのは、象棊纂圖部類抄の記述の方ではないでしょうか。この件も含めてのあれこれ、後日の投稿にいたします。
なお、歩兵の前にポコッとはみ出た注人、仲人、奇犬の駒の並び方も、shatranj variantsに由来しているのかも知れません。