あとしばらくで別刷が届きます。次の展示から配布予定です。最後のまとめの節(第9節)だけ以下に紹介します。タイトルは摩訶大将棋の復刻、18ページの論文です。
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9.まとめ
摩訶大将棋は,平安時代に創案された日本独自の大型将棋である.摩訶大将棋を現代にまで伝えたのは,1592年に写本された象戯圖であり,象戯圖がなければ,摩訶大将棋の復刻は不可能だったと言える.しかし,象戯圖には,摩訶大将棋のルールが明確に書かれているわけではない.本稿で詳述したとおり,象戯圖に書かれている情報は少なくかつ断片的である.ただ,幸運なことに,情報は少ないものの復刻するにはぎりぎり足りていて,まるでパズルを解くように摩訶大将棋の復刻ができた次第である.
本論文では,象戯圖の記述に基づき,遊戯としての摩訶大将棋の復刻を試みた.復刻により掘り起こされたルールは,その都度,試験対局に附し,その妥当性を確認した上で採否を決定している.成りのタイミング等,部分的にはまだ明確でないところもあって,復刻は今も続けられているが,現段階の復刻でも十分に摩訶大将棋は再現できているものと思われる.それは,摩訶大将棋の対局が非常に面白いということからも言えるのである.面白くなければ,長い年月を古文書に残されて綿々と伝わることもなかっただろう.
対局時間の長さが問題視されることも多いが,最近よく使われる持ち時間設定(持ち時間:20分,秒読み:30秒3回)では,1時間以内で勝負が決まる.一般に想像されているよりも実際の対局時間はずっと短い.この点は強調しておきたい.摩訶大将棋には,現代将棋では考えられないような強い駒,鉤行や摩羯,師子や狛犬,法性や教王があるため,攻めも早く豪快である.盤面が大きいために,致命的な悪手を気づかず指して早々に負けてしまうことも少なくない.対局時間の予想外の短さはこうした要因による.
最後に,本稿ではほとんど取り上げなかったが,遊戯ではない摩訶大将棋のことも書いておかねばならない.古代日本では,たいていの遊戯は,遊戯であるとともに神事でもあった.したがって,摩訶大将棋の復刻は,遊戯の部分だけでなく,遊戯ではない部分の復刻が必然的に付いてくる.そして,摩訶大将棋の場合,この遊戯ではない部分もまた非常に興味深い内容を持っている.これについては,次の論文に譲りたい.
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(2017.04.15 16:30)